ゴミ屋敷化の背景にしばしば見られる心理状態の一つに、「ため込み症(ホーディング障害)」があります。これは、物を捨てることに対して強い苦痛を感じ、その結果、多量の物を収集・保持してしまう精神疾患です。単に収集癖があるとか、整理整頓が苦手というレベルを超え、集めた物や所有している物が生活空間を著しく侵害し、日常生活や社会生活に重大な支障をきたすことが特徴です。ため込み症の人の心理には、いくつかの特徴的な側面があります。まず、「物に対する過度な愛着や思い入れ」です。他人から見れば単なるゴミやガラクタにしか見えない物でも、本人にとっては特別な価値や意味があると感じられます。「これはいつか役に立つかもしれない」という実用的価値や潜在的価値を過大評価したり、「これは大切な思い出の品だ」といった情緒的価値に強くこだわったりします。その物を手放すことに対して、強い不安や後悔、あるいはまるで自分自身の一部を失うかのような苦痛を感じるのです。「決断力の低下」もため込み症の人の心理的な特徴です。どの物を残し、どの物を捨てるかという判断が非常に難しく感じられ、優柔不断になってしまいます。決断を下すことへの不安やストレスが大きいため、結局何も判断できずに物を溜め込んでしまうのです。また、「完璧主義」的な傾向が裏目に出ることもあります。「完璧に分類して収納しなければ意味がない」と考えすぎてしまい、理想が高すぎるために現実的な行動に移せなかったり、途中で挫折したりします。ため込み症は、しばしばうつ病や不安障害、ADHD(注意欠陥・多動性障害)、強迫性障害といった他の精神疾患や発達障害と併存します。特にADHDの不注意や衝動性は、物を整理整頓する能力や、衝動的に物を買ってしまう傾向に影響し、ため込みを悪化させることがあります。強迫性障害のように、特定の物を集めたり、捨てられなかったりすることへの強いこだわりや不安が伴うこともありますが、ため込み症は強迫性障害とは区別される独立した障害と見なされています。
物を捨てられない心理でため込み症とは